山梨県発ペットのフリーペーパー「ペット雑誌BUDDY(バディ)」 2018年9月号掲載
動物とともに生きていく…。そう心に決めた人たちがいる。そんな人たちの動物との出会い、交流、そしてライフスタイルを紹介していくのが「My Buddy(マイバディ)」です。動物を愛する人たちの日々の暮らしには、動物と楽しく暮らすためのヒントが満載! 動物の幸せを願って…、彼ら彼女たちの想いは同じです。じっくりとご覧ください♪ |
【夫婦と愛犬の物語】困難を乗り越えて掴んだ愛犬との幸せな時間
本当にいろいろあったから…ふるむは人生の一部、体の一部
困難を乗り越え掴んだ幸せ。愛犬を抱きしめて笑顔を見せる二人が歩んできた道は、けっして平坦ではなかった。普通の人が聞けば、壮絶という言葉で表されるかもしれない。今回は、黒田さんご夫婦と愛犬ふるむの物語。
ふるむ(ワイアー・フォックス・テリア/女の子/推定11~13歳)
「何気なくネットで保護犬のサイトを見ていたときに、なぜだか、ある子が目にとまりました。毛が半分だけカットされた、羊みたいなブサイクな子」
それが、奥さんとふるむとの出会いだった。いつかは自分で犬を飼ってみたいという気持ちはあったが、サイトには里親になるための厳しい条件がいろいろと書いてあり、そのうえ飼うのが難しいと言われているテリア。
どうせ断られるだろう…と思いつつも、奥さんはメールを出してみた。
メールの返事はすぐに来た。内容は「数日後にそちらに行く用事があるので、連れていきます。一度お会いしましょう」。まさか、こんなにも早くと驚いた奥さんは、そこで初めて旦那さんと相談。
「俺は犬を飼ったことないし、散歩も大変なんじゃないの? でもお前がちゃんと面倒をみるならいいよ」と、旦那さんの了解をもらい、保護団体の人と会うこととなった。
そこで団体のスタッフから「自分の尻尾を追っかけて回ったり、食糞したり、いろいろと問題はある子なんです」と、保護犬ふるむがどんな状態なのか説明を受けた。
二人に不安な気持ちはあったものの、話はとんとん拍子に進み、トライアルを行うことになった。
自分の尻尾を噛み家の壁が血だらけに
ここからが過酷な日々の始まりだった。
「家に来て二日目ぐらいから、ワンワン吠えながら、自分の尻尾を追っかけて回るようになって…。止めようとすると、噛みつかれて、怖くて、怖くて」とは奥さん。
旦那さんの方は「ほっとけばそのうち飽きてやめるだろう」と楽観的だったのだが、日を追うごとにふるむの行動はひどくなっていった。二人が家を出ようとすると回りだし、外で子供の声がすると回りだし、散歩中にバイクのマフラー音を聞くと回りだした。
「ピンポンが鳴っても回りだすので、外出するときは、ピンポンを切りました。掃除機の音もダメだったので、普通の生活が送れなかったですね。ある日、家に帰ったら、壁に血の筋がいくつもついていたことがありました。
ふるむの尻尾をみたら、自分で噛んだ傷があって。壁中、血だらけでしたね」と、当時を振り返る奥さん。トライアル期間も終わりに近づき、ふるむを迎え入れるのか、返すのか決断のときがやってきた。
「このまま、ふるむをケージに入れて返してしまったら…。二人とも心に穴が空いてしまうと思いました。尻尾を追っかけだすと大変ですが、普段はとっても良い子なんです。ふるむを迎え入れる決心をしました」とは旦那さん。
手がかかる子ほど可愛いとはいうが、その後も、二人の苦労は続いた。
「スイッチが入ると目が充血して歯をむき出しにして、とにかくすごいんです。人間で例えるなら、普段はおとなしい女の子が、急に別人格になって暴れて、自傷行為をする、そういう感じですかね」。こう語るのは旦那さん。奥さんはふるむに本気噛みされて、三回も病院に行った。
家の中でもリードをして、口輪をした時期もあった。尻尾を噛まないようにカラーも試したが、ふるむは食糞もするので、ブルドーザー状態で、家中がウンチまみれになったこともあった。
そんな状態が約二年続いた。もちろん二人は、その間にふるむの問題行動を解決しようと、いろいろと手を尽くしてきた。
「トライアルのときから、ドッグトレーナーさんにみてもらったり、その後もセラピストさんにカウンセリングしてもらったり、動物病院にも行きました。でも、問題行動は直りませんでした」
困り果てた奥さんは、ふるむのいた保護団体に相談。そこで紹介してもらったのが、清里のアニマルコミュニケーターだった。
ふるむと二人を変えたアニマルコミュニケーター
「正直、最初は半信半疑でした。でも、その人と会ってお話していると、不思議と安心感がありました。それからです、ふるむが変わり始めたのは。その後、いろいろとアドバイスをもらい、実践してきたことで、問題行動は徐々に減っていきました」とは奥さん。
「安心感を得た。それが一番大きいですね。『大丈夫だよ』と言ってもらって、心構えが変わって、一歩を踏み出せたんです」とは旦那さん。
アニマルコミュニケーターに出会ってから一年、二年と経過して行くと、徐々に本気噛みはなくなり、ふるむは落ち着いてきた。尻尾を追っかけて回ることもなくなり、今まで怖くて全く手を出せなかった奥さんもふるむの口の中にまで手を入れてケアできるようになった。
ドッグランにも普通に行けるようになり、旦那さんと一緒に走った、そんな普通のことができるようになったことが、ただただ幸せだったという。
ふるむの問題行動がなくなって、やっとこれから…というときに心配な出来事が起こった。ふるむが目を怪我したのだ。
「いつ怪我したのかも全然わからなくて、ある日気づいたら、目のところが傷ついていたんです」
いつも一緒にいるのになぜか気づかなかった奥さん。
「最初は三日ぐらいで治ると言われていたのですが、二ヵ月しても治らないので、瞼を縫合する手術をすることになって病院でレントゲンを撮ったんです。そしたら、偶然にも肥大した脾臓が見つかって…」とは旦那さん。
その日のうちに、脾臓摘出の手術。先生からは、もう少し遅かったら、破裂して亡くなっていたかもしれません、と言われたという。
二人はふるむの起こした奇跡を心から喜んだ。もっともっと長生きして欲しい。もっともっと一緒にいたい。二人の願いは、ただそれだけだから。
問題行動を乗り越え、病気を乗り越え、歩んできた八年。いま二人にとってふるむは、なくてはならない、いなくなることが考えられない大切な存在だ。
「犬じゃないんです、ふるむという生き物なんです(笑)。本当にいろいろとあったから、私たちにとってふるむは人生の一部、体の一部ですね。三人でひとつ。一人でも欠けたらダメなんです」
笑顔の二人はこう語りながら、ふるむを見つめる。二人を見つめ返すふるむは、きっとこう思っているに違いない。
「いろいろ心配かけたけど、私、いま、すっごく幸せだよ」
(終わり)
昔の姿が嘘のように、落ち着いて問題行動がなくなった、ふるむ。黒田さんご夫婦は年二回ほど清里を訪れ、アニマルコミュニケーターと楽しくお茶を飲みながら、ふるむの話に花を咲かせている